環境意識の高まりから「バイオエタノール」が大変注目されています。
しかしバイオエタノールはまだ日本ではまだ馴染みの少ない燃料です。
そこで今回は化学メーカー勤務の私が、生産方法、生産量、用途等を分かりやすく解析していきます!
バイオエタノールはサトウキビやトウモロコシといったバイオマス(再生可能資源)から作られており、車などの燃料として使われています。CO2排出がほとんどなく、石油と異なり枯渇の問題がないことから、環境に易しいと注目されています。
この記事では以下について解説します
・バイオエタノールの概要
・生産地、生産方法、生産量、用途
まずはバイオエタノールについて1分で理解しよう!
エタノールは石油から製造されるものとバイオマスから製造されるものがあり、全世界で約1200億リットル生産されています。そしてそのほとんどがバイオマスから製造されています。
1200億リットルと聞くとイメージが湧きづらいですが、石油の生産量約4.6兆リットルと比較すると3%です。石油は世界各国で大量に採掘されており、3%はかなりの量だということが分かります。
エタノールの85%程度は自動車などの燃料に利用されており、その他は工業用で溶剤などに使用されています。
バイオエタノールはその名の通りバイオマス(サトウキビやトウモロコシ)から生産されたエタノールです。
このバイオエタノールは環境に良いと言われ、アメリカやブラジル等で特に活用が進められ、ガソリンなどの燃料に一定量以混ぜることが義務付けられています。
ガソリンもバイオエタノールも車の燃料等に使う際は同じように二酸化炭素を排出していますが、何故バイオエタノールは環境に良いとされているのでしょうか?
それはバイオエタノールの原料に関係しています。バイオエタノールの原料である、サトウキビやトウモロコシは成長する際、光合成によって待機中のCO2を吸収しています。
つまりこの時点で大気中のCO2はマイナスになっています。
そのためサトウキビから作られたバイオエタノールを燃料として燃やしてCO2が発生したとしても、大気中のCO2はプラスマイナスゼロになります。
→このような考え方をカーボンニュートラルと呼びます。
一方石油から作られたガソリンを燃やした際に発生したCO2はもともと地中に埋まっていた石油から発生したため、大気中のCO2はプラスになります。
バイオエタノールの生産について
それではこのバイオエタノールはどこでどのように製造されているのでしょうか?
ここからはその詳細を説明します。
生産地について
現在世界でエタノールは約1200億リットル生産されています。そのうち最も生産しているのはアメリカで約600億リットル(50%)の生産量を誇ります。
次はブラジルで約300億リットル(25%)生産しており、世界のエタノールはアメリカとブラジルで70%以上が製造されています。ついで中国、欧州となります。
日本では石油から製造するエタノールの製造は昔から行われていますが、お酒を除くとバイオエタノールの製造はほとんど行われていません。
バイオエタノールを製造するにはサトウキビやトウモロコシが必要ですが、アメリカやブラジルと異なり土地が少ないため製造コストが高いことから実用化が難しいことが理由になります。
生産方法について
バイオエタノールの製造方法はお酒と同じで、糖を発酵することで得られます。
簡単に説明すると糖(グルコース等)を微生物の力でエタノールに変換します
バイオエタノールの原料は大きく分けて糖質原料とでんぷん質原料です。
糖質材料で最も主流な原料はサトウキビです。まずはサトウキビを絞ってモラセスを製造し、それを発酵することでバイオエタノールが得られます。
モラセスは砂糖を精製する時に発生し、糖分以外の成分も含んだ年粘状で黒褐色の液体です。海外ではクッキーやマフィンなどお菓子のフレーバーに使われます。
デンプン質材料はトウモロコシやジャガイモでデンプンを多く含むものです。
しかし微生物はデンプンを直接エタノールに変換できないため、まずはデンプンを糖化する必要があります。そして得られた糖を発酵することでバイオエタノールが得られます。
またアメリカではトウモロコシなどのデンプン質原料が一般的で、ブラジルではサトウキビ等の糖質原料が主流です。
次世代バイオエタノール
バイオエタノールは環境にいいですが、1点問題があります。それは食料であるサトウキビやトウモロコシを使用することです。そのため食糧問題などの観点から燃料利用に反対する意見もあります。
その対応策として開発が進められ、一部実用化されているのが、次世代バイオエタノールです。これは食物の食べられない部分や木片等の原料を使いエタノールを製造します。これまでは製造コストが問題でしたが、各国の技術開発により低コスト化に成功しており、今後のさらなる普及が期待されています。
バイオエタノールの課題と解決策
バイオエタノールは低環境負荷であることから注目されているものの、以下のような課題もあります。
1. 食料と燃料の競合
- 問題点: バイオエタノールの原料となる作物(例えば、トウモロコシやサトウキビ)の需要が増加すると、食料価格が上昇する可能性があります。
- 解決策: 第二世代(非食用部分から製造されるバイオエタノール)や第三世代(藻類などから製造されるバイオエタノール)の技術の開発と商業化を進めることで、食料と燃料の競合を避けるような取り組みが進んでいます。
2. 環境への影響
- 問題点: バイオエタノールの生産過程での農薬や肥料の使用、土地の転用が環境へ悪影響を与える可能性があります。
- 解決策: 持続可能な農業方法の導入、環境に優しい農薬や肥料の使用、廃棄物や副産物を原料とするバイオエタノールの生産技術の開発などが挙げられます。
3. エネルギー収支
- 問題点: バイオエタノールの生産、輸送、使用の過程で消費されるエネルギーが、得られるエネルギーよりも多い場合があります。
- 解決策: 生産プロセスの効率化、エネルギー効率の良い輸送手段の利用、エネルギー収支がプラスになる原料の選定などが有効です。
4. 経済性
- 問題点: 石油由来の燃料に比べて、バイオエタノールはコストが高くなる傾向があります。
- 解決策: 生産コストを削減する技術の開発、効率的な生産体制の構築、政府による補助金や税制優遇などの支援策が導入されています。
5. 技術的課題
- 問題点: 第二世代、第三世代バイオエタノールの商業的な生産にはまだ技術的な課題が多いです。
- 解決策: 研究開発の促進、公私の資金投入による技術革新の加速、国際的な協力の促進が必要です。
その他
日本におけるバイオエタノール
現在日本で利用されているバイオエタノールは、ブラジルとアメリカで製造されたものです。
しかし日本でも脱炭素の取り組みは加速しており、特に次世代バイオエタノールの開発には積極的です。具体的には各都道府県で以下のような取り組みが進められており、今後の普及が期待されます。
図は経済産業省、バイオエタノールの導入に関するこれまでの取り組みと最近の動向から引用
日本における石油由来のエタノールの製造
日本では石油由来のエタノール製造が主流で、三菱ケミカル㈱や日本合成アルコール㈱が製造しています。これはShell Oil社が開発したエチレンを水和させる技術によるもので、それぞれ化粧品、洗剤、塗料など幅広い分野で使用されています。
まとめ
環境問題の意識が高まり、カーボンニュートラル、サーキュラー・エコノミーなどの言葉を聞く機会も増えました。その中でもバイオエタノールは環境に優しい燃料などと知られ昔から活用されています。ただ日本での使用は少ないためあまり詳細はしれていませんが、今回概要が分かっていただけたと思います。
参考文献
OECD-FAO Agricultural Outlook 2016-2025
経済産業省、バイオエタノールの導入に関するこれまでの取り組みと最近の動向
平成28年度エタノールの世界需給に関する調査役務請負報告書
コメント
ダイセルの久保田博士の研究成果CCSCモデルは実に興味深い。