プラスチックを成形した際、プラスチックの内部には歪みが残ります。
この歪みを和らげるために行う処理を「アニール処理」または「アニーリング」と呼びます。
特にプラスチックを加工する際には加工品の寸法精度に大きな影響を及ぼすアニール処理。その原理・方法について誰でもわかるように、簡単にご説明します。
この記事では以下について解説します
・アニールにより得られる効果
・プラスチックには歪みが残る
・アニール処理により結晶化度を高める
・アニール処理の方法
アニールにより得られる効果
アニールにより得られる主な効果は以下の2点です。
・プラスチックに残った歪みを緩和する
→加工による変形を抑え、寸法安定性を高める
・結晶化度を上げることで、プラスチックの耐熱性・剛性を高める
→より丈夫で熱に強い製品になります
これらの効果について、順を追って説明していきます。
プラスチックには歪みが残る
プラスチックを成形した際には内部に歪みが発生します。これを「残留歪み」と呼びます。
残留歪みの主な原因は成形の際「冷却時に外部と内部で温度差ができる」ためです。図で説明すると以下のようになります。
Tips
厳密に言えば「残留歪み」は温度差の影響だけではありません。成形時に樹脂が高い圧力を掛けて金型に押し出される等、複合的な要因が有ります。
歪みが残ったままでは加工時に変形が起きる
プラスチックの内部に大きな偏りができてしまっているため、歪みを緩和せずに加工をしてしまうと、変形の原因になってしまいます。
歪みを緩和するのに必要なのが「アニール処理」になります。
アニール処理により結晶化度を高める
成形直後のプラスチックは、ゆっくり冷却することで結晶化度を高めることができます。結晶化度を高めることで、プラスチックは耐熱性・剛性が上がります。
適切なアニール処理を行うことで、より丈夫で熱に強い製品を作ることができるようになります。
アニール処理の方法
アニール処理を行う上で重要なことは2つ有ります。
・徐々に温め、徐々に冷却する
・温度は融点以下、温度はガラス転移温度以上に設定する
徐々に温め、徐々に冷却する
「残留歪み」は外部と内部の冷却の差によって生じます。それは上に書いた通りです。「急激に温めて、急激に冷やした」ことにより、外部と内部で偏りが生じてしまったと言い換えることもできます。
そのため、「徐々に温めて、徐々に冷やす」ことで、内部の残留歪みを除去することができます。
Tips
残留歪みを完全に除去することはできません。残留歪みはプラスチックの成形に影響が出やすいですが、プラスチックだけでなく全ての材料に発生するものです。材料の歪みを極力緩和することが、アニール処理の目的になります。
温度は融点以下、ガラス転移温度以上に設定する
・融点とは
物質は3つの状態になります。それが、気体・液体・固体です。融点は物質が固体から液体に変化する際の温度です。
最高温度を融点よりも上に設定してしまうと、形作られたプラスチックが溶けて変形してしまいます。そのため、アニールの際は融点よりも温度を低く設定する必要が有ります。
・ガラス転移温度とは
もう一つ重要なのが、ガラス転移温度です。
プラスチックはガラス転移温度より上の温度領域において結晶化が進みます。そのため、アニールの際には、ガラス転移温度より上の温度を設定することで結晶化度を高めることができます。
Tips
プラスチックの分子は温度が高まると分子運動をします。その分子は、ある程度の温度まで到達すると運動性が下がってしまいます。その境目がガラス転移温度です。
それぞれのプラスチックにおける、ガラス転移温度と融点は以下にまとめました。
※プラスチックの温度依存性については、それぞれの分子量等によって異なります。上の表はあくまでも目安として参考にしてください。
ガラス転移温度について、より詳しい説明が知りたい人は以下のリンクからどうぞ。
まとめ
プラスチックを成形した際、プラスチックの内部には残留歪みが発生します。残留歪みを緩和するのがアニール処理です。適切なアニール処理をすることで、プラスチックの耐熱性・剛性を高めることができます。
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