だれでも分かる「ハイエントロピー合金とは?」注目されている技術の特徴や今後の展望を徹底解説

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化学の知識

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1. ハイエントロピー合金とは何か?

https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20240207.html

ハイエントロピー合金は、近年注目されている新しい合金の一種です。

通常の合金が2~3種類の元素を組み合わせたものであるのに対し、ハイエントロピー合金は4つ以上の異なる元素を均一に混合した合金です。

従来の合金よりも元素の比率が均等であり、そのため独特な物性を示すことが特徴です。

このハイエントロピー合金は、高い耐摩耗性や耐食性、耐熱性、強靱性などの優れた機械的性質を持っています。

また、電気伝導性や磁気特性なども調節することが可能であり、幅広い応用が期待されています。

さらに、ハイエントロピー合金はその組成や結晶構造によって、さまざまな特性を持つことが研究されています。

そのため、材料工学や金属工学などの分野での応用において大きな可能性を秘めていると言えます。

ハイエントロピー合金の研究はまだ初期段階であり、新しい発見や技術革新が続々と進んでいます。

そのため、今後ますます注目を集めることが予想され、材料開発において革新的な進展をもたらす重要な分野であると言えます。

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2. ハイエントロピー合金の歴史と由来

ハイエントロピー合金、または多元元素合金とも呼ばれるこの革新的な材料は、金属学の分野において近年注目を集めています。

ハイエントロピー合金は、従来の金属合金とは異なり、複数の元素を均一に混合したものであり、その特異な組成によって非常に興味深い特性を持っています。

ハイエントロピー合金は、実際には新しい材料として2010年代に初めて提案されましたが、その発想や基礎となる理論は遡ること数十年以上前にまでさかのぼります。

具体的には、アメリカの物理学者であり物質科学者でもあるジョアン・アールダーが、その論文において初めて多元元素合金の可能性を提唱し、構想を提示しました。

これに対して、実際に初めて具体的な実験を行ったのは、台湾の国立清華大学のグループでした。

彼らは複数の元素を均一に混合した合金を製作し、その特性や構造を調査しました。

その結果、ハイエントロピー合金は単なる理論や概念ではなく、実際に合金として合成・製造されることが可能であることが示されました。

ハイエントロピー合金は、従来の金属材料にはない耐摩耗性や耐腐食性、耐熱性などの優れた機能を有しており、航空宇宙や自動車産業、エネルギー分野など、さまざまな産業での応用が期待されています。

今後も研究開発が進み、その可能性を広げていくことが期待されています。

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3. ハイエントロピー合金の特性とはどのようなものか?

繰り返しになりますが、ハイエントロピー合金(High Entropy Alloys, HEAs)とは、従来の金属合金とは異なる特性を持つ新しい合金の一種です。

https://imc.mtl.kyoto-u.ac.jp/HEA.html

従来の金属合金は、通常1~2種の主要元素を基準となる元素として添加することで合金化されますが、ハイエントロピー合金は複数の元素を等モル比で組み合わせた合金です。

この複数の元素が均一に混合した結晶構造がハイエントロピー合金の最大の特徴であり、その結果、独特な物理的・化学的特性を示すとされています。

ハイエントロピー合金の主な特性には以下のようなものがあります。

1. 高い耐食性:
HEAsは通常の金属合金よりも耐食性が高いとされています。これは、複数の元素が均一に混合していることにより、表面の酸化・腐食が抑制されるためです。

2. 優れた強度と靭性:
HEAsは均一な結晶構造を持つため、強度や靭性に優れています。また、組成を適切に調整することで、特定の条件下での耐摩耗性や耐疲労性を向上させることが可能です。

3. 高温・低温特性:
一部のハイエントロピー合金は、高温や低温での性質が優れており、高温での耐熱性や低温での靭性が特に優れています。

4. 優れた摩耗・摩擦特性:
一部のHEAsは、従来の合金よりも摩耗や摩擦に対する耐性が高いとされ、高負荷下での摩擦熱による変形や損傷を抑制できる可能性があります。

5. 磁気特性:
一部のハイエントロピー合金は磁気特性を持ち、磁性材料としての応用も期待されています。

ハイエントロピー合金は、従来の合金設計の枠組みを超えた新たな素材として注目を集めており、様々な工学分野での応用が期待されています。

4. ハイエントロピー合金の合金設計の考え方

HEAsは、通常5つ以上の異なる元素を均一に混合した合金であり、その名前の由来ともなっている高いエントロピーを持っています。

この独特な特性により、HEAsは従来の合金よりも耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性などの優れた機械的性質を持つことが期待されています。

HEAsの合金設計の考え方は、従来の合金設計とは異なり、複数の元素を同時に添加することで、新しい特性をもつ合金を創出するという革新的なアプローチを取っています。

具体的な合金設計の考え方としては、以下のようなポイントが挙げられます。

1. 元素選択:
HEAsの設計にあたっては、できるだけ異なる元素を組み合わせることが重要です。選ばれる元素同士は、原子半径や電気陰性度、ファネデルワールス半径など、物理的・化学的性質が異なることが望ましいです。

2. 混合比率:
合金中の各元素の比率は、その合金の特性に大きな影響を与えます。理想的には、均一な分布を保ちつつ、相互作用や拮抗作用を考慮して適切な混合比率を見極める必要があります。

3. 格子エネルギー最小化:
合金中の元素同士の相互作用を最小化するために、格子エネルギー最小化が重要です。この観点から、相互作用の強さや元素の配列を最適化することで、合金の安定性や強度を向上させることが可能です。

4. 相変態制御:
合金中の各元素が結晶構造や溶解度の違いを持っているため、それぞれの相の形成や変態をコントロールすることが重要です。例えば、脆性相の形成を抑制するために、適切な組成を選定することが不可欠です。

5. ハイエントロピー合金の製造方法

ハイエントロピー合金の製造方法は、非常に複雑です。

以下にハイエントロピー合金の製造方法について詳しく解説します。

ハイエントロピー合金は、3つ以上の異なる元素を均一に混ぜ合わせた合金であり、通常は5つ以上の元素を含んでいます。この特殊な組成は、従来の合金とは異なる物性を持つことが特徴です。

ハイエントロピー合金の製造方法にはいくつかの手法がありますが、最も一般的な方法は「共晶凝固法」と「機械合金法」です。

1. 共晶凝固法:

この方法では、異なる元素を溶融した後、急速に冷却することで元素間の均一な混合を実現します。共晶凝固法は、高エネルギーを持つ元素間の相互作用を利用して、ハイエントロピー合金を得る方法です。

2. 機械合金法:

この方法では、異なる元素を粉末状態で混合し、高温で圧縮して固体の合金を作ります。機械合金法は、元素間の粒子間距離を小さくすることで、原子間の相互作用を増加させることができます。

他にも気相法など多様な製造方法が存在しますが、どの方法も高度な技術と厳密な制御が必要とされます。

ハイエントロピー合金の製造は、元素間の微細な相互作用をコントロールすることによって、特異な物性を持つ材料を作り出すプロセスです。

ハイエントロピー合金の高度な製造方法については、研究開発が進んでおり、今後さらなる革新が期待されています。

6. ハイエントロピー合金の応用分野とは?

HEAsは優れた物理的・化学的特性を有しており、様々な応用分野での活用が期待されています。

1. 耐摩耗性材料:

   HEAsは耐摩耗性に優れており、金属部品や機械部品の摩耗を軽減するための素材として利用されます。特に、高速で摩擦を受ける状況下での使用に適しており、寿命の長い部品作りに役立ちます。

2. 耐熱材料:

   高エントロピー合金は、高温環境において安定した性能を維持する能力があります。

そのため、航空宇宙産業やエネルギー産業において、熱に晒される部品や構造材料として活用されます。耐火性や耐熱性が求められる場面で重要な役割を果たします。

3. 強度と靭性を兼ね備えた構造材料:

   HEAsは通常、優れた強度と靭性を兼ね備えているため、これらの特性が要求される自動車や船舶などの輸送関連産業において、部品製造や構造材料として利用されています。

特に軽量で耐久性が高い材料として注目を集めています。

4. 磁性材料:

   一部のHEAsは磁性を持っており、磁気デバイスやセンサーなどの分野で応用されています。

磁性材料としての特性を活かし、電気・電子機器の部品や磁石としての利用が期待されています。

5. 放射線シールド材料:

   放射線に対する耐性を持つHEAsは、原子力産業や放射線治療などの分野で放射線シールド材料として使用されています。安全性が求められる環境下での利用が期待されています。

以上が、HEAの応用分野の一部です。ハイエントロピー合金の多様な特性によって、様々な分野での利用が期待されており、今後の研究や技術開発がますます注目されるでしょう。

7. ハイエントロピー合金と従来の合金の比較

https://nikkan.co.jp/articles/view/408535

まず、従来の合金とは、通常2〜3種類の元素が混合されている材料を指します。

これに対し、ハイエントロピー合金は、5つ以上の元素が均等に混合された非常に複雑な構造を持つ合金です。

これにより、従来の合金に比べて多様な物性を示すことができるとされています。

ハイエントロピー合金の特長としては、以下の点が挙げられます。

1. 形成可能な結晶構造の種類が非常に多い:

従来の合金では、特定の結晶構造が主に形成されますが、ハイエントロピー合金では多様な結晶構造が安定な状態で存在するため、新たな物性を探究することが可能です。

2. 優れた機械的特性:

ハイエントロピー合金は、非常に硬い、耐摩耗性が高い、耐食性が優れているなど、機械的特性において従来の合金を凌駕する性能を持つことがあります。

3. 高い耐熱性:

ハイエントロピー合金は、高温下で安定した性能を発揮するため、エンジン部品や航空機部品など、高温環境下での利用が期待されています。

一方、従来の合金と比較すると、ハイエントロピー合金には以下のような課題も存在します。

1. 合金成分の最適化:

多元素を含むハイエントロピー合金の合金設計は複雑であり、様々な組み合わせによって異なる物性が現れるため、最適な合金設計を行うことが難しい場合があります。

2. 製造コストの高さ:

ハイエントロピー合金は複雑な合金設計や製造プロセスが必要となるため、製造コストが高い場合があります。

8. ハイエントロピー合金の安定性と耐久性について

ここからはハイエントロピー合金の安定性と耐久性について解説します。

まず、ハイエントロピー合金の安定性について考える上で重要なポイントは、多元素混合による原子配置の不規則性です。

通常の合金は、少数の元素で構成されることが一般的ですが、ハイエントロピー合金は4つ以上の元素を含むため、原子配置が非常に複雑になります。

この複雑な原子配置により、合金全体が安定な状態を保つことができ、特定の元素が局所的に集中して不安定な領域を形成する可能性が低くなります。

さらに、ハイエントロピー合金は格子欠陥や相分離などの不均一な構造を抑制する効果があります。

複数の元素がランダムに配置されることで、相互作用が複雑になり、不均一な構造を形成しにくくなります。

このため、ハイエントロピー合金は高温や高圧の環境下でも安定性を維持しやすいとされています。

次に、ハイエントロピー合金の耐久性について解説します。

ハイエントロピー合金は、原子間の相互作用が複雑に絡み合っているため、普通の合金よりも硬度や耐摩耗性、耐腐食性が優れていると言われています。

また、複数の元素を含むことで、強度や靭性などの機械的性質も向上するとされています。

さらに、ハイエントロピー合金は熱膨張係数や磁性、電気伝導性などの物理的性質においても優れた特性を持っているため、様々な分野での応用が期待されています。

例えば、高温環境下での使用や軽量化を図った部品の製造などに適しています。

総括すると、ハイエントロピー合金は多元素混合による独自の構造と特性を持ち、その安定性と耐久性は従来の合金にはない特長があります。

これらの特性を活かして、新たな材料としての可能性が広がっていると言えるでしょう。

9. ハイエントロピー合金の今後の展望と研究課題

1. 新たな合金設計:

ハイエントロピー合金の魅力の一つは、無数の組成変更の可能性があることです。

将来的には、より優れた特性を持つハイエントロピー合金の合金設計手法が開発されることが期待されます。特に、特定の応用に最適な物性を持つ合金の開発が求められます。

2. 微視構造の制御:

ハイエントロピー合金は極めて複雑な微視構造を持つことが知られています。

これらの微視構造を制御し、特定の機械的・熱物性に最適化することが課題となります。例えば、ナノ結晶や均質な相分布を実現する技術の開発が必要です。

3. 高温・厳しい環境下での挙動:

ハイエントロピー合金の応用範囲を広げるためには、高温や厳しい環境下での挙動が重要です。

高温強度や耐食性の向上、放射線に対する耐性など、ハイエントロピー合金の性能改善に向けた研究が重要です。

4. 持続可能性とリサイクル:

材料の持続可能性に関する要求が高まる中、ハイエントロピー合金のリサイクルや廃棄物削減技術の開発が重要となります。合金成分の再利用や廃棄物処理技術の研究が必要です。

5. ミクロスケールでの解析:

さらに、ハイエントロピー合金の微観察や原子スケールでの解析技術の発展が求められます。原子間力の理解や組成変化の影響をミクロレベルで捉えることが、将来的な合金設計の鍵となります。

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