誰でもわかる【ガス分離膜とは】概要・技術・種類・活用例をやさしく解説

この記事を書いた人

総合化学メーカーで研究開発・新規事業開発を担当。

化学や事業開発に関する情報を「分かりやすく、深く理解できる」ことを目指して発信中。

昨年は葛藤の中転職活動を行い、最初は苦労するも自らの視座が高まったことから転職活動についても積極的に情報発信しています!

👉【体験談】30代で大手化学メーカー研究職に転職!年収300万UPできた理由

プラスチック・樹脂

※当サイトは、アフィリエイト広告を利用しています。

近年カーボンニュートラルに向けた動きが世界各国で急激に進んでいます。

その中でも注目を集めているのが、分離膜によるガスの分離技術です。

このガスの分離技術により、例えば空気中からCO2だけを分離して地中に埋めたり、化学品の原料などとして利用することができる可能性があり期待されています。

今回はこのガス分離膜について化学メーカーで研究開発をする私が概要・技術・種類・活用例をわかりやすく解説していきます!

スポンサーリンク

まずはガス分離膜について1分で理解

まずガス分離膜は「混合ガス(いろいろな気体が混ざったガス)から特定のガスだけを分離する膜」です。

例えば空気の中には酸素、窒素、CO2、アルゴンなどのガス(気体)が混ざっています。

ここに例えば二酸化炭素だけを分離する膜を用意すると、この空気から二酸化炭素だけが分離されます。

このように地球温暖化の原因といわれているCO2だけを分離して、地中に埋めることができると考えたら夢のような技術ですよね!

こういった背景もあり、様々なガスを分離できるガス分離膜は積極的に検討されています。

スポンサーリンク

ガス分離膜の種類にはいろいろな種類がある?

ガス分離膜と聞くとどんなものを想像するでしょうか?

実際ガス分離膜にはいろいろな種類の材料があり、目的や用途に応じて様々な材料が検討されています。

例えば下の図を参考にしてもらうと分かりますが、その種類は本当にたくさんあります。

ガス分離膜の種類

これらの種類をまず大きく分けると、有機系の高分子膜、そして無機物質から作られる無機膜。最後に有機と無機を複合させたハイブリッド膜の3種類があります。

ではなぜこのように多くの種類の膜が開発されているのでしょうか?

それはどの種類の分離膜もメリット、デメリットがあり、様々な観点から改良が進められているからです。

各タイプの分離膜の特徴は大きく分けて以下の通りになっています。

  • 高分子膜:膜としての性能は低いが、製造コストが安くて作るのが簡単
    (膜の性能については後ほど詳しく説明します。)
  • 無機膜:膜としての性能は高いが、製造コストが高い
  • ハイブリッド膜:高分子膜と無機膜のいいとこ取りを目指した新しいタイプの分離膜

このように高分子膜は安価で作るのが簡単な一方、性能(ガスを分離する性能)が低いから、この点で改良が検討されています。

一方無機膜は選択性などは高いものの、製造コストが高かったり、そもそも工業的に作るのが難しいなどの問題があります。

そのためこれらの問題を解決するために研究開発が進められています。

そして比較的新しいタイプの分離膜がハイブリッド膜です。これは高分子膜の作りやすさと、無機膜の性能のメリットをどちらも活かせるように研究開発が進められています。

それではここからは、これらの分離膜について解説していきます。

高分子膜 古くから研究されている高分子膜

分離膜材料として古くから研究されているのは高分子膜です。

高分子膜は実際に空気から酸素や窒素を分離膜する材料としても既に商業化されています。

高分子膜と聞くとイメージしずらいかもしれませんが、サランラップやフィルムのようなものをイメージです。

例えばガス分離膜には下の図のようなポリイミドが用いられています。

この画像をみると、これでどうやってガスが分離できるの?

と思うかもしれませんが、溶解-拡散によって分離されます。

具体的にはこの分離膜(フィルム)に酸素やCO2が触れると、それぞれの気体がこの分離膜に溶解します。

そして溶解した気体がこの膜を拡散していくことで、透過します。

そしてこの透過のしやすさ活用することでそれぞれの気体を分離しています。

例えばこの分離膜がCO2をよりよく溶解させて、拡散させる場合、CO2だけが選択的に透過して分離できるというイメージです。

無機膜 性能は高いが製造が大変

無機膜にも様々な種類があり、有名なものはゼオライト膜です。その他にも最近注目されているものとしてMOF膜があります。

これらは特定のガスだけを通す性能が非常に高く、有望な材料である一方製造が大変でとても難しいことがしられています。

下の図はCO2用に開発された分離膜で、この見た目からも作るのがとても難しいイメージがわきますね。

出典:https://www.denkishimbun.com/sp/38271

そして無機膜でガスを分離するメカニズムは、「分子ふるい」という効果が利用されます。

無機膜は一見すると穴などはありませんが、顕微鏡などで観察すると、無数の穴が空いています。

この穴のサイズよりも小さい分子のみが透過する=分離できる、というメカニズムです。

具体的には下の図のようなイメージです。

スポンサーリンク

ガス分離膜に求められる特性

ガス分離膜に求められる特性は大きく分けて2つあります。それは選択性と透過性です。

選択性は簡単にいうと、どれだけ目的のガスだけを透過するか?という指標です。

例えば酸素と窒素を分離して酸素を取り出しとします。その時どれだけ酸素だけを透過するか、ということを示したものです。

一方透過性はどれだけガスを通すかを示す指標です。

例えば酸素と窒素を流して、酸素だけを非常に通す膜があったとします。しかしその膜に酸素を通してもほんの僅かにしか流れない場合は、分離効率が良いといえません。

そのためガスの分離では、どれだけガスを透過させることができ、そしてそのガスからどれだけ目的のガスだけを選択的に通すかということが重要な指標になります。

ガス分離膜 分離性能

日本の代表的なガス分離膜メーカー

UBE 古くからガス分離膜を展開

UBEはガス分離膜を製造・販売している国内の代表的なメーカーです。

その中でも代表的な膜が水素分離膜です。

これらの水素分離膜は高分子膜(芳香族ポリイミド)を使用しています。

用途としては以下のようなところで使用されており、身の回りの生活にも大きく関わっています。

  1. 石油精製工業-触媒改質、水素化分解、水素化精製、水添脱硫等、副生ガスからの水素回収
  2. 化学工業-メタノール合成、オキソ合成等の各種プラントガスからの水素回収
  3. その他-天然ガスからのヘリウム回収

東レ 水分離膜で世界トップレベル

東レは海水を淡水化する水の分離まで世界トップレベルの企業です。

最近はその技術を活用してガスの分離膜の開発も進めています。

特に最近はCO2の分離膜に力を入れており、東レが得意とする炭素を活用した無機系の分離膜を開発しています。

出典:東レHP

ガス分離膜の展望

ガス分離の技術は非常にされていますが、実際に実用化されている例としては僅かです。

その理由としては大きく2つあり、まず1つ目が既に既存の技術があるからです。ガス分離膜は名前の通り、ガスを分離する技術です。しかしこのようにガスを分離する技術は分離膜だけではなく、蒸留や吸着法などのような技術があります。

中でも蒸留はとても歴史が古く多くの場面で使われています。これを省エネ化する技術が膜技術です。しかし既存の歴史のある技術を置き換えるためには、少しの改善ではなく、かなりの改善効果が必要です。

そのためにはまだまだ検討されている材料では性能が低く、なかなか既存技術の置き換えにはいたっていません。

これが例えばとても選択性や透過性が高く、さらにコストも安いとなれば、急速にガス分離膜は普及していくことが考えられます。

まとめ

今回はガス分離膜について概要をわかりやすく説明しました。これらからの技術として大変注目されていますので、是非チェックしてください。

2. メンブレンによるガス分離 – テクノロジーレポート (mecadi.com)

コメント